歯がないままで、大丈夫ですか?

このようなご質問を受けることがあります。歯が抜けてしまった後に、どのような治療法を選択するかも重要ですが、
その前に「歯を抜けたままにしておかない」ということがとても重要です。

と言って、歯科医院で先生に歯を抜いてもらってから、そのままにしてしまう方が少なからずいらっしゃいます。
それに、歯が抜けた後の治療というのは何となく抵抗があるかと思います。
外科手術を伴うインプラントも、完成後も入れ歯安定剤が必要な義歯も、差し歯に近いブリッジ治療も…
保険外治療法でお金がかかるし、型取りに行くのも面倒だし…
それに、虫歯を抜いてそのままにしておいても、すぐに痛みが出るわけでも、腫れるわけでもないから別に大丈夫!
皆さんの中にも、そう思っている方はいらっしゃいませんか? 

しかし、これは
大きな間違いです。
歯を抜いてそのままにしておくと、様々な問題が出てきます。
歯科医師として、これは皆様にしっかりとお伝えしたい内容です。
それはすぐに起きるものではありませんが、じわじわと時間をかけて、あなたに大きなトラブルとなって
襲いかかって来る可能性が高くなります。
歯は指のように1本1本が動くことはありませんが、1本1本に役割があり、それぞれの機能を果たすことで全体が機能するようになっています。ですから、1本無くなったままにしておくことで全体の口腔機能のバランスが崩れてくることになってしまうのです。

機能面への影響

影響1

抜けた歯と咬み合っていた歯が
抜けた歯のスペースに伸びて出てくる
(対合歯の挺出)

スペースに出てくる

歯を失ってしまうことによって、これまで反対側の歯はその歯と咬み合うことによって受けていた刺激が受けられなくなることによって、刺激を求めて伸びてくるのです。
これは反対の歯の長さが長くなるのではなく、骨の中に埋まっていた部分が出てくることになります。そして、接触する歯がなければ、反対の歯ぐきまで伸びてくることもあるのです。
これによって、反対の歯は大きな問題を抱えることになってしまうのです。
根っこから長く伸びてしまった歯を戻すことはトンカチで打てば戻る釘とは違うので戻すことが難しくなります。また、抜けてしまった歯のスペースを補うための人工の歯を入れる際にもとても難しい治療となってしまうのです。

影響2

抜けた歯の両隣の歯が
抜けた歯のスペースに動き、傾いてくる
(隣接歯の傾斜)

スペースに傾いてくる

歯は相互に力を掛け合うことによってその位置を保ってきました。しかし、歯を抜いてしまったことによって、その両隣の歯を支えてくれる歯が無くなってしまい、歯を抜いたことによってできたスペースに徐々に動き、傾いてきます。
また、これをそのまま長期間、放置しておくとさらに横の歯も同じように傾いてきます。
この傾いてしまった歯を元に戻そうとすると、これは全体的な歯列矯正治療が必要になってきます。たった一部分の歯並びを治すだけでも、結局は全体に手をつけざるを得ず、費用としては60〜80万円程度かかることが一般的です。

影響3

上記1・2が起こることによって、
咬み合わせがおかしくなる
(咬合の不調和・顎偏位症)

顎関節症の代表的な症状:関節音、顎の関節の痛み、口が大きく開かない、肩こり

また、抜いてしまった歯の本数が多い場合にはうまく咬むことが出来なくなってしまうので、もう片方の歯でばかり咬み(片咬み)、咬み合わせのバランスが崩れてきます。
このように咬み合わせがずれることにより、顎関節症の原因となるリスクが高くなってくるのです。

そして、かみ合わせがずれたままにしておくと歯をどんどんと失っていき、負の連鎖により、奥歯から崩壊が始まってしまうことにもなります。
奥歯の歯を失って大きな総義歯を入れるか、インプラントを複数本入れるか…
本来、歯を失った時は、すぐにきちんと治療を行い、残っているご自身の天然歯をなるべく大切に長持ちさせることが望ましいです。

たった1本歯が無くなっただけだと思い、そのままにしておくと徐々に全体のバランスが崩れてくることになってしまうのです。

審美面への影響

影響1

歯が抜けたままであることによって
見た目が悪くなる

*

歯が抜けたままですと、見た目が悪いですし、他の人からの印象が悪くなります。女性や、人と会うお仕事をされている方には深刻なお話ですよね。
また、本人もそれを気にして、大きな口をあけて笑ったり、知り合いや友達とのコミュニケーションを取らなくなってしまうこともあるようです。
普段はあまり人の歯を意識して見ない人でも、その人のお口の中に歯がなかったりすると、違和感があり気になったりするものです。
それだけ、歯や口元の審美性が周囲の人に与える印象は大きいということです。インプラントの上部構造として装着するセラミック冠は審美性に優れておりますので、見えてしまってもほとんど問題ありません。

影響2

歯の骨が溶けることによって、
歯ぐきの位置が下がってくる

歯槽骨が衰えていく

歯を失ってしまうと、歯茎が下がってきます。 しかし、これは歯肉が下がっているのではありません。歯を支えているのは歯茎ではなく、歯槽骨という骨なのですが、この歯槽骨が歯を失ってしまったことによって機能しなくなり、その幅と高さを徐々に減らし骨量が少なくなってしまうのです。歯医者でしっかりレントゲンや歯科用CTにかけると、状態は一目瞭然です。
特に上顎の歯が抜けている場合、上顎洞の下の骨幅がインプラント体(チタン金属製の人工歯根)を埋められないほど薄くなっていることも多いです。その場合は高度な手術法が必要となり、ソケットリフト法で骨を押し上げ再生したり、サイナスリフト法で骨補填材と人工骨を粘膜の中に埋入する治療方法を取っていきます。研鑽を積んだ当院では、もちろん施術可能です。

影響3

顔の輪郭が変化してくる

頬がこける、口元のシワ、顎のたるみ

大人の歯を4本抜歯する矯正治療によって顔の印象が変わるのは、顔の輪郭の変化もあります。
奥歯を失うと、頬のラインや顎のラインが内側によります。
これを矯正医学的に行うのであれば良いのですが、抜いた歯を放置していると、おかしなことになってしまうことがほとんどです。歯を失ってから時間が経つと、歯ぐきも下がってくるので、頬がこけて見えたり、顎がたるんで見えたりします。また、前歯の場合は口元にシワが寄りやすくなります。
実際の年齢の割に、周りよりも高齢に見えてしまうこともあるでしょう。このように見た目の面からも抜いた歯を放置しておくということは大きなマイナスとなってしまうのです。

生活面への影響

影響1

きちんと咬めないことで胃腸に負担がかかる
(咀嚼障害による胃腸への負担)

消化の妨げに

咬み合せのバランスが崩れてしまったことによってうまく食事を咀嚼できない状態が続くと消化しにくい状態で食べ物が胃腸に送られることになり、胃や腸への負担が増加します。
また、咀嚼がきちんとできないと唾液の分泌が不足するので、消化の妨げになります。それだけでなく、唾液には口の中をキレイにする自浄作用があります。唾液の不足により歯垢の分解が上手く進まず、歯周病のリスクが高まります。 唾液の不足は口臭の原因となってしまう場合もあります。

影響2

上手く発音が出来なくなる

*

歯がない部分から息が漏れ、発音が不明瞭になってしまう場合もあります。
そのような自分の話し方を気にして、あまり人と話さなくなってしまうこともあります。

影響3

脳への刺激減少

噛むことで脳血流量の増加が促され脳の活性化につながります

咬むことで、脳に刺激が与えられるのですが、咬み合わせがずれることによって、この脳への刺激も減少することになってしまいます。

たった1本の歯を失うことで
及ぼす影響
いかがでしたでしょうか? このように歯を抜いたまま放置しておくことで、様々な問題が起こることがお分かりいただけたと思います。
そして、重要なことはこのような問題を引き起こすだけでなく、歯を抜いた後に放置したことによって、反対側の歯が伸びてきたり、両隣の歯が傾いてきていることが健康面での問題を引き起こす最大の原因なのですが、この状況を改善するにはかなり大掛かりな治療が必要となるということなのです。歯科医療において、歯を抜いたまま放置することはそれほど問題なことなのです。
「歯を抜いた後に放置せずに、すぐに対処していれば、こんな問題が起きなかったのに、何で後から」という患者さんが来院されることもあります。
また、歯が抜けた部位の骨が衰退する問題ですが、例えインプラントを埋入しても完全に問題から解放されたわけではありません。インプラント施術部位は通常よりも歯周ポケットが深くなっているため、日々の歯磨きだけでなく歯科衛生士によるメンテナンスが推奨されます。それを怠ると、インプラント歯周炎や周囲粘膜炎になる可能性が高くなります。
また、それが進行してインプラント歯周炎になってしまうと、歯槽骨が溶けてせっかく入れたインプラントが脱落する恐れもあります。歯周病日本歯周病学会のガンドラインには、その部位がプラークにさらされている限り、周囲粘膜炎から周囲炎への進行は進み続けると書かれています。
インプラントでも、ブリッジでも、部分入れ歯でも何でも構いません。保険診療でも保険外診療どちらでも良いです。とにかくあなたがそのようなトラブルを抱えないために、少なくとも歯を抜いてしまった後は放置せずにしっかりと最後まで治療計画を完了するようにしてください。
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